立退料の計算方法
立退料が1000万円や億単位になるのは賃借人が事業用に土地建物を利用していた場合がほとんどです。これは、立退料の算定にあたって、営業利益や得意先の喪失などの補償を考慮するからです。
一方で、居住目的であっても2500万円の立退料が認められたケースもありますし、月額5万円程度の家賃で立退料が200万円以上で合意できたケースもあります。
しかし、実は、立退料の計算方法については明確なものがあるわけではないのです。ただ、裁判例の積み重ねによる実践的な考え方がありますので、このページでは、概略として立退料についてはこのように考えられているという点を説明します。
ここはやや専門的で分かりにくいところなのですが、立退料というのは厳密には賃借人の権利ではありません。そのため、賃貸人が「出ていけ」と行った後、立退料の交渉に入り、「じゃあ出ていかなくていいよ」と言われてしまうと、「いや出ていく前提で立退料を払え!」とは言えなくなりますので、この点は注意が必要です。
法的には、立退料というのは、賃貸人の契約更新拒絶や解約申入れに必要な「正当事由」があるかどうかという判断の際に、「補完的」な役割を果たすものです。そのため、立退料以前にまず正当事由が認められないというケースでは、賃貸人からの立退料の提案は法的には何も意味を持ちません。
前提2はあくまで「法的」な話であり、法的に正当事由がない場合でも、立退料が「事実上」重要な意味を持つ場面は実は多くあります。賃借人が一定の金銭交付が受けられるのであれば正当事由の有無に関わらず立ち退きに応じても良いと考えることがありますし、賃貸人としても土地建物の有効利用という観点から相当程度の金銭交付をしてでも立ち退いてもらいたいと考えることもまたよくあるからです。
以上を前提に、立退料の計算は方法を見ていきましょう。立退料の計算方法は、大別すると2つの方法があります。
借家権価格(借地権価格)方式
損害の個別積み上げ方式
⑴ 借家権価格(借地権価格)
借家権価格(借地権価格)を算定してそれを立退料の金額とする方法です。借家権価格(借地権価格)は、土地建物の市場価格と借家権割合(借地権割合)が分かれば簡単に算出できるというメリットがあります。この分かりやすさから、価格算定方法に差異はあるとしても借家権価格(借地権価格)を割り出して立退料の額の参考とする裁判例も多くあります。
ただし、正当事由があることとして借家権(借地権)が消滅することを前提に考えるべきであるのにその価格を立退料とすることの論理に説得性がないことや、借地権の場合はまだしも、借家権の場合には借家権の取引慣行がなく「借家権割合」を現実的に観念することが難しいなどの問題があります。実際、これらの点を指摘して借家権価格を立退料とすることを明示的に否定する裁判例もあります。借家権の取引慣行がない場合には相続税評価の際の財産評価基本通達等を参考に30%程度とすることが多いようです。
⑵ 損害の個別積み上げ(損失補償基準)
賃借人の被る不利益(損害)を個別に算出して積み上げることで立退料の金額を算定する方法です。これは、説明としては十分説得性を有する方法であり、近年の裁判例では少しずつ採用されることが増えているように感じられる方法です。
ただし、一見合理的に思えるこの方法も、居住用建物の場合には立退料の額が小さくなりすぎる場合があること、どの損害をどの範囲まで積み上げるべきかについて結局曖昧であるなどのデメリットもあります。損害の範囲については、国土交通省の公用用地の取得に伴う損失補償基準(以下「損失補償基準」といいます。)が参考になり、曖昧さを和らげる役割を果たしており、実際に不動産鑑定士等の鑑定にも用いられて裁判例でもこれを採用することがあります。
積み上げられる補償項目としては以下のようなものがあります。
I 移転に伴う費用の補償
① 移転料(引越し費用)
② 移転にかかる雑費
③ 新規に賃借する家屋の契約に要する経費
④ 新規賃貸家賃差額の補償
II 賃貸借に関する契約や法律で認められる補償
⑤ 造作の買取費用
⑥ 建物の買取費用(借地権の場合)
⑦ 賃貸借契約上の必要費や有益費の償還
Ⅲ 慰謝料(精神的苦痛の補償)
⑧ 地縁的・社会的隔絶や変化に対する補償
Ⅳ 営業の休止・廃止に伴う損失の補償
⑨ 営業補償
Ⅴ 解決金的に支払われるもの
⑩ 訴訟等による手続長期化の予防や費用の節約等の見返り
Ⅵ 借地権価格・借家権価格の補償
⑪ 借地権・借家権の価格
損失補償基準と立退料
損失補償基準は、私人が所有する土地を国等が公共用地として取得する際に所有権者等に対する補償について補償額を算出するための基準であり、直接的に立退料と関係するわけではありません。
しかし、それまで法律上の権利を持って有していた場所を追いやられる人への補償という意味では、公共用地取得される土地所有者と立ち退き請求される賃借人の立場は似ているといえますし、実際に立ち退かざるを得なくなる場合の不利益も似たものになります。
また、損失補償基準は、かなり細かく定められていることや公共用地取得の場面で用いられることから一定程度の客観性が担保されているといえます。
そのため、立退料の額について不動産鑑定士による鑑定を行う場合などは、損失補償基準を参考にする鑑定がされることも多いといえます。
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